- 股関節の異常は日常生活動作・生活の質に深刻な影響を与えます
- 股関節に異常を生じる原因
- 主な症状
- 代表的な疾患
- 股関節に変形を引き起こす主な要因
- 診断に必要となる各種検査について
- 治療について
- 姿勢の悪さや肥満を原因とする股関節の異常も多くみられる
- 股関節の痛みでお悩みの方は当院にご相談ください
股関節の異常は日常生活動作・
生活の質に深刻な影響を与えます
股関節は私たちの日常生活において重要な役割を果たす部位です。「立つ」「歩く」「座る」といった基本的な動作に直接関わります。特に歩行時には交互に体重がかかるため、常に大きな負担を受けています。研究によると股関節は体重の約3倍の負荷を受けるとされており、股関節に問題があると強い痛みや骨の変形が起こりやすくなります。また、股関節は脊椎から膝までの機能とも連動しており、日常生活での様々な動作に影響を与えます。これらの障害が重なると、寝たきり状態など生活の質が急速に低下する可能性があります。股関節の治療には専門的なトレーニングが必要で、総合的なアプローチが求められます。
股関節のメカニズム
股関節は太ももの骨である大腿骨と、その受け皿となる骨盤との関節です。この関節が斜めや左右、前後に動かせるのは、大腿骨の先端部が球状になっていて(骨頭)、それを受ける骨盤側の臼蓋と呼ばれる部分が滑らかな皿状をしているからです。しかし、この骨頭と臼蓋のフィットが浅くなると、骨が簡単にずれたり変形したりすることがあります。また、股関節の形状に先天的な問題がある場合もあります。乳児の健康診断で異常が見つかることが多く、乳幼児期から装具を使った適切な治療や、赤ちゃんを抱っこする姿勢やオムツを替える際の足の動かし方など、専門的なケアが成長に伴い改善につながることがあります。股関節の異常は早期に適切な治療を開始することが重要です。状態が進行している場合には手術が必要なこともあります。
股関節に異常を生じる原因
骨折
股関節の骨折は、転倒時の強い衝撃によって発生することがあります。特に大腿骨の付け根にある大腿骨頚部において骨折が起こりやすく、この骨折は骨粗鬆症を患う高齢者や更年期以降の女性によく見られます。股関節を骨折すると立つことや歩くことが困難になることがあります。
関節部分の変形
股関節は先天的な形の問題や加齢による変化で、本来のクッションとして機能するべき軟骨がすり減ることがあります。その結果、臼蓋(骨盤の一部)と大腿骨の頭部が過度に摩擦を生じ、関節の変形が加速される可能性があります。
股関節周りにある筋肉の
付着部で起きる炎症
大腿直筋の腱が骨盤に付着している部分に損傷を受けると、その周囲に炎症が起こることがあります。同様に股関節周りには大きな腱が複数ありますが、この腱が骨盤に付着する部位で剥離骨折や筋腱損傷を起こすことが多くみられます。特に小学生から高校生年代のスポーツ活動が盛んな時期に痛めてしまい、我慢しながら悪化させてケースが多いので早めに相談するようにしてください。関節周囲の軟部組織損傷は拘縮を招きやすく、適切な治療を行わないと動作時の痛みが続いてしまう場合があります。
主な症状
- 股関節部分の強い痛み
- 歩行困難
- 立つことが難しい
- 座ることが難しい
- 階段を上り下りする際に足のつけ根が詰まる感じがする
- 足の爪切りが難しい
- 靴下が履きづらい
- 車やバスの乗り降りの際には必ず手すりが必要となった
- 運動時に痛みを生じる
など
股関節は様々な日常動作に関わる重要な部位です。
すでに何らかの異常や上記のような症状に心当たりを感じたらまずは早期に診察にお越しださい。
代表的な疾患
変形性股関節症
股関節の異常は、臨床現場でも最も頻度の高い疾患の一つです。この疾患は股関節にある軟骨が摩耗して、大腿骨側と骨盤側の骨がこすれたりすることで骨が変形をして炎症を起こして歩行時や立ち上がりなどで痛みを生じます。症状が進行するにつれて、強い痛みが生じ、股関節の可動域が制限されます。これにより歩行困難など、日常生活に必要な様々な動作が困難になる深刻な障害が現れ始めます。
股関節に変形を引き起こす主な要因
発育性股関節形成不全
(先天性股関節脱臼・臼蓋形成不全)
大腿骨骨頭に対して骨盤側のかぶりが浅いなどの生まれつきの股関節形態異常による問題で、股の開きが十分でなくなったり、痛みを生じる病気です。出生後の早い段階の健診で発見されることもあり、適切な抱き方の指導や必要に応じて装具の装着が行われることがありますが、かなりの方がこの時期には発見されずに成人してから症状が出てくることも多いです。
関節リウマチ
関節内の慢性的な炎症により引き起こされる疾患です。関節リウマチは滑膜組織が異常な増殖を起こし、関節内で持続的な炎症を引き起こします。この炎症が進行すると関節が破壊され、様々な機能障害を生じる可能性があります。
大腿骨頭壊死症
特発性大腿骨頭壊死症は国の難病指定を受けている疾患です。その原因は完全には明らかにされていませんが、関連する要因として、股関節骨折や脱臼といった二次性の事象に加えて、ステロイドの投与、糖尿病、過剰な飲酒などが関与している可能性が指摘されています。この疾患では、骨の先端部分に通う血管が詰まりを起こし、血流が阻害されることで骨が壊死してしまいます。壊死が急速に進むこともあれば、ゆっくりと進行することもあり、個人によって異なります。しかし、他の部位と比較して壊死が速い傾向があります。年齢に関係なく発症する可能性があるため、注意が必要です。疼痛が強く日常生活に支障がある場合は骨切り術や人工股関節置換術などの手術が行われます。
大腿骨頚部骨折
大腿骨頚部骨折は股関節部に痛みをもたらし、立ち上がったり歩行したりすることが非常に難しくなります。通常、手術が必要な状況になります。この骨折は、腰椎圧迫骨折や橈骨遠位端骨折と並ぶ三大骨折の一つで、年間に約17万人もの患者様が手術を受ける頻度の高い骨折です。転倒や事故だけでなく、骨粗鬆症もこの骨折を引き起こしやすい要因のひとつです。したがって、ご高齢の方や更年期を過ぎた女性は特に注意が必要です。
股関節周りにある筋肉の炎症
股関節の周りは大きな筋肉で支えられています。特に陸上競技やサッカーなどのスポーツをする場合、筋肉の付着部に痛みを伴う炎症が起こることがあります。こうした症状に関するご相談は、スポーツ整形にて対応可能です。
診断に必要となる各種検査について
レントゲン
体に負担の少ないX線を用いて、骨折の有無や骨の変形や骨形態に異常がないか、またリウマチ性の変化、壊死や腫瘍性病変などの有無などを詳しく観察します。
超音波(エコー)検査
筋肉の損傷や関節内そして関節外の炎症の有無、腫瘍をはじめリアルタイムな評価が可能となります。
MRI
レントゲンで見えない骨折や骨挫傷、壊死のチェック、また腱や靭帯、筋肉や炎症など軟部組織に関する異常を精緻に分析します。
必要な方は連携する医療機関をご紹介します。
治療について
症状や病態に応じて、股関節関連の疾患は治療法が異なります。一般的に、痛みが強い場合はその痛みを和らげる対症療法を行います。個々の症状に応じて、細やかな処置を検討します。
薬物療法
消炎鎮痛剤や外用剤をうまく組み合わせ、またエコー下の関節内注射やハイドロリリースなどを用いた治療で痛みを緩和します。
装具治療
杖や装具などを用いて日常生活に関する動きの改善、歩行の際の痛みを軽減します。
物理療法
温熱治療や様々な干渉波治療器、超音波治療器などを組み合わせ消炎をはかったり、効果的な筋肉のリラクゼーションを得ることで、血行改善や代謝の循環を促進させ痛みの改善につなげることができます。
運動器リハビリテーション
物理療法と同時に、股関節周辺の筋肉や靭帯を柔軟にするストレッチや強化する筋力トレーニングなど、運動器リハビリテーションを行います。単に股関節だけではなく、脊柱からひざまでの全体的な運動器としてのアプローチが有効です。腰を含めた広範なストレッチや体を支える筋肉の柔軟性を向上させるトレーニングなど、総合的なリハビリテーションが重要です。
日常生活動作の確認や、負担の少ない動きを身につけるトレーニングも積極的に行います。当院では疾患の進行を抑制するための多岐にわたるリハビリテーションを提供しています。
手術治療
股関節の変形が著しく進行すると、日常生活が困難になるほど重篤な症状が現れることがあります。そのような場合には、人工股関節置換術などの高度な手術が選択されることがあります。また、大腿骨頚部骨折の場合も、ほとんどの場合で手術治療が必要となります。
姿勢の悪さや肥満を原因とする
股関節の異常も多くみられる
骨盤は通常、わずかに前傾しています。しかし、腰の曲がりなど姿勢の乱れが生じると、骨盤は徐々に後方に傾いてしまいます。この後方傾斜により、股関節の臼蓋が浅くなり、股関節に異常が生じやすくなることがあります。これを「ヒップスパインシンドローム」と呼び、脊柱変形による股関節の変形で悩む方が増えています。また、生活習慣の乱れからくる肥満は、股関節に加わる負荷を増加させ、骨の負担を増やし、結果的に変形や痛みを引き起こす可能性があります。早期の対応が極めて重要であり、早い段階での診断と治療が重要です。
股関節の痛みでお悩みの方は
当院にご相談ください
股関節の問題は生まれつきのことが多いです。乳幼児期から診断が容易で、乳幼児健診では必ず確認される項目ですが、見逃されてすりぬけてしまうケースも多いといわれています。早期の治療開始により、軽度な変形は日常生活でのケアによる改善が期待できます。ただし、一度変形が進むと元に戻すことは難しく、その進行を食い止めるか、症状を緩和する対症療法が基本です。当院ではリハビリテーションだけでなく、自宅で行えるストレッチや日常生活における様々な動きの工夫についてもアドバイスしています。股関節はほぼ全ての日常動作と連動するため、異常を感じたら早めに診察を受けることが大切です。