靭帯損傷とは
肘、膝、足首を日常生活やスポーツ中に捻挫すると、痛みや腫れの他に、関節を安定させる靭帯が伸張したり断裂したりして、関節がグラグラする不安定感などの症状が生じます。
肘関節
転倒などの急性外傷での捻挫や脱臼によって生じる急性の靭帯損傷と、投球などのスポーツで慢性的に発生する靭帯の損傷があります。特に投球時は肘の内側に、内側の靭帯が伸びる方向に外反ストレスが加わり靭帯の損傷やゆるみが出てきます。
膝関節
サッカーやラグビーなどの接触スポーツでは接触時の急激な衝撃による接触型の損傷がみられます。また同じサッカーや、そのほかバレーボールやバスケットボールなどの非接触スポーツでの着地時や方向転換時に起こる膝に過度なストレスが加わって起こる非接触型の損傷がみられます。
足関節
歩行やスポーツ中の動作やジャンプ着地時などで内反ストレスによる靭帯損傷が発生します。
靭帯損傷の症状
靭帯の損傷により、以下のような症状が現れます。
疼痛
損傷した部位を中心に腫れが悪化し、安静時や荷重時に痛みが増すことがあります。
腫れ
靭帯の断裂により出血が生じ、関節周囲に腫れが発生します。
可動域制限
腫れや痛みのため、関節の動きが制限されます。
筋力低下
関節を動かさないことで筋収縮が抑制され、放置すると筋力低下や筋肉の萎縮が進行する可能性があります。
関節の不安定性
靭帯の損傷により、日常生活やスポーツ活動中に関節が不安定に感じられることがあります。
靭帯損傷の診断
単純レントゲン撮影
捻挫による骨折の有無を確認します。痛みが軽減してから足関節を引っ張って撮影し、不安定性も確認します。
超音波(エコー)検査
超音波診断装置は、関節内の腫れや腱、靭帯の損傷、ストレスによる不安定性などを比較的簡便に検査することが可能です。
超音波診断を通じて靭帯の修復過程も把握できるため、診察で不安定性があるかどうかを確認し、その後の固定方法やリハビリプランの決定、特にスポーツ選手の場合はスポーツ復帰の判断基準にも役立てることができます。
MRI
レントゲンで分からない骨軟骨損傷や骨挫傷、周囲の内出血や腱、靭帯損傷など全体像を詳しく調べます。
必要な場合は連携する医療機関をご紹介します。
靭帯損傷の重症度分類
(Freyらの重症度分類)
グレードⅠ度 | 前距腓靭帯・踵腓靭帯の部分断裂 |
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グレードⅡ度 | 前距腓靭帯の単独断裂 |
グレードⅢ度 | 前距腓靭帯・踵腓靭帯の断裂 |
靭帯損傷の場合、グレードⅠ度やⅡ度では保存療法を中心に行います。しかし、グレードⅢ度で関節の不安定性が著しく、関節軟骨に負担がかかる場合は手術を検討することもあります。
靭帯損傷の治療
治療は通常、保存療法が主体です。不安定性や痛み、腫れの度合い、関節軟骨や骨への二次的な損傷の程度を総合的に評価し、歩行や運動開始などの判断をします。
保存療法
【急性期】受傷0日〜14日
POLICE処置、消炎治療
「Protection(保護)・Optimal Loading(最適な負荷)・Ice(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)」
保護(Protection)
装具やシーネなどで損傷部位を保護し、再受傷や悪化を防ぐようにします。
最適な負荷(Optimal Loading)
早期から最適な負荷をかけることで、最適な組織修復を促すことができます。(診察でチェックをしながら最適な負荷についてはご説明致します。)
冷却(Ice)
患部を冷やすことにより痛みを和らげる効果があります。
圧迫(COMPRESSION)
患部を圧迫することにより、腫れや内出血を抑える効果があります。
拳上(ELEVATION)
患部を心臓より高い位置に挙げることにより、血液の循環を抑え、内出血を抑える効果があります。
また当院では受傷直後から超音波治療やハイボルテージ電気刺激治療を始めます。損傷した組織が深部に及んでいる場合や、誘発物質が発生している箇所に対して、超音波治療や高電圧の電気刺激を与える高周波療法を用いて組織の修復を促進します。受傷後早い段階からこれを始めることで痛みや腫れが早く改善し、早くスポーツ復帰できることが証明されています。
保存療法
【亜急性期】受傷14日〜
適切な荷重負荷、タオルギャザー、
適度なエクササイズ
【タオルギャザー】
- タオルの上に足部を置きます。
- 足趾(足の指)を曲げ、タオルをたぐり寄せます。
【目的】
長母趾屈筋の滑走性改善
【ポイント】
大きく足趾(足の指)を動かすことが重要です。
背屈可動域運動
【方法】
距骨という足関節前方の骨を押さえ、踏み込みます。
【目的】
背屈可動域の改善
【ポイント】
段差の上で行うことで体勢がとりやすいです。
足関節チューブエクササイズ
【方法】
外反
- 座位でチューブを足部の外側につけ、一方の足の裏を通り、外側に引っ掛け、手で持ちます。
- 足部を外側へ捻ります。
内反
-
座位でチューブを足部の内側につけ、一方の足の裏でチューブを押さえます。
- 足部を内側へ捻ります。
【目的】
足関節周囲筋の筋力強化(外反:腓骨筋群 内反:後脛骨筋など)
【ポイント】
外側、内側へ捻った後はゆっくり戻します。 10回左右3セットずつ行いましょう。
保存療法
【回復期】3-4週以降
カーフレイズ (両脚、片脚)
【方法】
両脚カーフレイズ
両足の踵を真っすぐ上げるのを繰り返します。
片脚カーフレイズ
片足の踵を真っすぐ上げるのを繰り返します。
【目的】
下腿三頭筋の筋力強化
【ポイント】
踵が外側へ移動しないように気をつけます。
スクワット
【方法】
- 足を肩幅に開きます。
- つま先が真っ直ぐになっているのを確認します。
- お尻を引くように股関節から曲げていきます。
- 股関節が曲がった後に膝関節が少し曲がり、膝がつま先より前に出ないようにします。
【目的】
殿部、大腿前面、後面の筋力強化
【ポイント】
- つま先が浮いていることが確認できたら、重心が後方にあるので、前方に少し移動することが重要です。
- 膝が内側に入らないように注意します。
バランストレーニング
- バランスディスクの上に乗り、保持します。
- 30秒保持します。
【目的】
バランス機能向上
【ポイント】
- 30秒の保持が難しい場合は、5秒〜25秒と時間の調整を行います。
- バランスが少し崩れても立ち直ることが大切です。
- 明らかに不安定な状態は転倒の危険性があるため無理はしないようにしましょう。
保存療法
【競技復帰準備期】
受傷4-6週〜
ジョギング、ジャンプ着地動作練習
<アジリティトレーニング サイドステップ>
【方法】
- シングルレッグスクワットの体勢から横にジャンプして反対側の足で着地します。
- 腕の振りも意識して行います。
【目的】
ジャンプ着地時の安定性の獲得
【ポイント】
-
膝が内側に入らないように注意します。
-
つま先より膝が前に出ないように注意します。
手術療法
靭帯損傷後はほとんどのケースで手術は必要ないと言われています。手術療法の種類には、クリーニング、靭帯縫合・再建術、骨・軟骨操作(ドリリング・軟骨移植)があります。
一般的に、日常生活やスポーツへの復帰を目指すために、手術後約3ヶ月間はリハビリを行います。目標とするレベルに達した時点で、治療は終了となります。
ただし、靭帯以外の組織(腱や軟骨など)にも手術が必要な場合、リハビリの内容や復帰時期は異なることがありますので、医師としっかり確認してください。